テトラちゃんと一緒に感動の叫び声を!

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)
『数学ガール』シリーズ
7月30日発売の『数学ガール/フェルマーの最終定理』を前にして,これを読んでしまわねばと一日頑張ってみました.発売当初に初めの章をぱらぱらと眺めていただけで中の数式もほとんど追っていなかったので,最初から一つ一つ式を咀嚼してたら読み終わるまで6時間近くかかりました.易しいとはいえぶっ続けでこんなに数式眺めていられた自分に驚きです.

この本で扱ってるのは高校数学のしかも1年生で習うようなことをベースにした内容なので一つ一つの式の展開はそれほど難しくないのですが,「倍角公式」とかすっかり頭から抜け落ちてしまったことばかりだったので数学面でも新鮮に楽しめました.

この本の登場人物は高校生の三人組で,数学が得意な順番で並べると,ミルカさん>「僕」>テトラちゃん.数学が得意な読者はミルカさんになったつもりで,苦手な人はテトラちゃんになったつもりでとありますが,僕は当然テトラちゃんと一緒に物語を進んでいきました(いろんな意味で).

「僕」―《語り手》
高校二年の男の子。眼鏡着用。教室では比較的無口だけれど、興に乗ると饒舌になる。数学、特に数式が好き。
ミルカさん―《オイラー萌えの才媛》
「僕」の同級生。《才媛》。眼鏡着用。長いストレートヘア。姿勢が良い。発想があちこち飛ぶ。傍若無人。数学が得意。ときおり、目をつむって独自の世界に入り込み、数学の解法を引き出してくる。
テトラちゃん―《妹キャラの元気少女》
「僕」の後輩。英語が得意。眼鏡なし。短い髪。小柄。バタバタっ娘。言葉が好き。数学の《わかってない感じ》を何とかしたいと思って、先輩を追いかける。そのうちに…。

今日のタイトルはテトラちゃんが新しい発見をしたときの叫び声「あ、あああああああっ!」から来ていて,下の問題の答えがわかったときは僕も心の中で「あああっ!」と叫んでしまったのでタイトルに引っ張ってきました.

次の無限級数が収束するならその値を求め,収束しないならそのことを証明せよ.
\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^2}
バーゼル問題)

当然解き方なんてさっぱり思いつかないわけです.しかもこの話がsinxを《因数分解》するとどうなるかって話から始まって,sinxはテイラー展開でも表すことができるから,その両辺の係数を比較してってやってるうちに…

「両辺に\pi^2を掛けてみると―――」
\frac{1}{1^1}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^3}+\cdots=\frac{\pi^2}{6}
「あ、ああああああああああっ!」
「解けてる。解けてるっ!バーゼル問題が解けてますよっ!」

という感じにテトラちゃんの叫びはまさに僕の心を代弁してくれたわけでした.ミルカさんの鮮やかな数式展開はすごくわかりやすくて,次はどうなるんだろうっていうわくわくどきどきな感じをまさにテトラちゃんと一緒に体験できてしまうわけです.ええ,大学院生なら自分で解けよという突っ込みは禁止です.

それにしても,このあたりの話の展開に必要な数学テクニックは非常に上手く織り交ぜられていたと思います.後半に行くに従って序盤で使っていた道具がどんどん出てきて,道具の組み合わせ次第でいろんなことができるようになるっていうのがありありと実感できました.



最後に,この本は数式が小説の中にばんばん出てくる,というか数式展開の中にちょこっと小説的なものが組み込まれているちょっと風変わりな内容です.数式が苦手な人は「はじめに」に書いてあるとおりお話だけを追っていくかもしれません.それも悪くはありませんが,自分でも思いも付かないような数式を一つ一つ理解していくことで,この本全体で伝えている「学ぶということ」っていうのがよく分かるんじゃないかと思います.数式で一粒,物語で一粒,両方食べると十倍おいしい.そんな感じです.

追記

この本に限らず物語の中で語られる言葉や心情にはぐっと来るものがたくさんあります.しかし,それは読者という第三者の視点からの観察であって,言葉や心情を読者自身が獲得できているわけではありません.テトラちゃんの感動は数式を追いかけていったテトラちゃんだけのものなのです.ただ,本書では「数式」を読者にも提示し,登場人物と同じ感動を味わうための手段を用意してくれています.この本の最大の魅力はそこかもしれませんね.

おまけ

台湾版数学ガールの書影にびっくりだぜ!
[結] 2008年7月 - 結城浩の日記