新しい価値観と自分探し

「新しい価値観を見つけたいんだ」


先日、ふとそんなことを言われて「へっ?」って変な顔になった。
価値観って単語自体はよく使われるし別に珍しいものでもないが、新しい価値観を見つけたい、というのは一体どういうことだろう。そんなこと考えたこともなかったので、その場ではなんとも言えなかったのだけど、なんかひっかかったのでちょっと考えてみた。


ぼんやりとした抽象的な話になるのであしからず。


まず価値観とはなんだろう。
これは別に難しくない。自分にとって何(ヒト・モノ・コト)が大事で、何がどうでもいいかっていうモノサシだ。人は大事な何かのために行動するから、価値観とは行動原理であると思っている。人の活動を本能(意識しない活動)によるものと理性(意識した活動)によるものに分けるなら、理性の活動とはすなわち現状を価値観という基準で測った上で、より良い指標になることを目指すための活動と言えるだろう。
この「より良い」がモノサシである価値観によってバラバラなので、「価値観は人それぞれだよー」なんて言葉がよく使われるが、あまりに自分とは異なる方向を向いてるモノサシだったり、変な形のモノサシの持ち主に出会うと許容範囲を超えて「そんなアニメとかフィギュアとかいい加減卒業したら?」なんてことになったりして衝突する。


価値観はその人の行動の基準になるので、今現在の「自分」を表すものであると言える。さらに、価値観が過去から現在までの経験に基づいて作られる、ユニーク*1なものであることから「自分」そのものであると言っても過言ではないと思う。同じものが好きという人に出会うことは十分ありうるが、すべての物事の好き嫌いがまったく同程度ということはありえない。価値観を単純な方法で表現するなら、あらゆるヒト・モノ・コトのそれぞれについて好きな度合いを0〜1の実数の要素として持つベクトルになるだろうか。2値にしたとしてもまったく同じ価値観の人に出会うことはないだろう。


さて、価値観が自分そのものであると言えるなら、
新しい価値観を探すというのは新しい自分を探すことをほぼ同義である。


自分探しと言い換えるとわりと耳慣れた言葉になるが、残念ながら僕は自分探しをしたいと思ったこともない。就活の時に自己分析とやらをするらしいが、まああれも自分探しの一種だろう(やらなかったけど)。先ほどの価値観の表現例で言えば、自己分析はこれは好きか嫌いかという項目がいっぱい入った表を埋めていって誰が見てもはっきりさせる作業だと思う。ぼんやりしているモノサシの形状をはっきりさせる作業と言ってもいいかもしれない。


僕は自分が何を好んで何を好まないか大雑把にわかってればいいし、基本的に自分の次の行動を決める上で自分の持つモノサシで判断に困ることがあまりない、というのが自分探しをしたいと思わない理由なんじゃないだろうか。どこにあるか分からない新しい自分を求めるよりは、今の自分の価値観の先に存在する理想の自分になる方が、少なくとも今の僕にとってはずっと価値のあることに思える。


価値観が持つ価値という話を出したが、人が持つ価値観そのものを評価することはできるだろうか。さっきの好き嫌いを1/0で表したときに1が多い方が良い、とかそういうものである。別に僕は何でもかんでも好きという人の価値観が良いとは思わないが、そう感じる人もいるだろう。それもまた価値観の一つに違いない。
僕は値の入っている項目の数で価値観の持つ価値が変わるかもしれないと思っている。例えば死ぬまで家の中で過ごした人が接したヒト・モノ・コトはそうでない人に比べて少なく、知らないものに対する好き嫌いは付けられないので、価値観テーブル*2は小さいままになってしまうだろう。逆にいろんな社会、世界に属している人は様々なことを知っていて、大きな価値観テーブルを持っていると思われる。


別のイメージで捉えると、価値観は自分と世界をつなぐ神経みたいなものだろうか。世界を知れば知る程自分と世界をつなぐ神経は増えて、いろんな情報のやり取りが発生する。好きなものにつながっている神経はたくさん情報をやり取りして、嫌いなものにつながっている神経はあんまり活性化しないようにする。そんなイメージ。



新しい価値観を見つけるというのが、自己分析(今の自分を価値観の表を埋める作業)ではなく、すでに値の埋まっているテーブルに加える新しい項目を探しに行くこと、と考えると僕もやぶさかではないかもしれない。新しい価値(あるものないもの)を知ることで、すでに持っている価値観を別の視点から見ることができ、より信頼の置けるモノサシになるのではないかという可能性を考えたりもする。




話があっちこっち行ったけど、書きながらなんとなく自分が納得したのでおしまい!




で、最近ちょうどこんな本を買ったばかりだったりする。
自分探しと楽しさについて (集英社新書)
割とどうでもいいけど、森さんはこの本を12時間程度で書いたらしい。僕はこの記事を1時間半かけて書いたわけで……森さんぱねえ。

*1:唯一性を持つという意味で

*2:値が入る、入らないという意味で表をイメージするのがしっくりきたのでテーブルと表現する