(ネタバレ注意)映画「タイピスト!」見てきました

都内では有楽町ヒューマントラストシネマのみ(!)で絶賛公開中の映画「タイピスト!」を見てきました。公開前から、テレビではタイピスト!の紹介に合わせて全日本タイピスト連合のコメントやぁゅ姫さんの登場があったり、有楽町では w/h さん協力(?)のもと公式タイピングイベントが開かれたりと、タイパー達の強力なタッグを感じさせる一大イベントになっていますが、映画の方もそれに負けず劣らず面白い作品になっていました。

以下ネタバレ注意な感想。タイピングに関する部分ばっかりです。














女王アニーの圧倒的存在感

マイ・ベストタイピスト賞は彼女に贈りたい。 映画の主演女優がインタビューされるかのような華やかな登場シーンから、ローズに負けてゴミクズのようにこれまでバックアップしていたタイプライターメーカーから見捨てられるシーンまで、余すところ無くかっこ良かったです。

全仏大会での対決シーンで気になったのはまさにタイプしている際の手元で、ローズは手をかなり上下にバタバタさせながら打つのに対して、アニーは最小限の動きでタイプしていた点が際立ちました。ローズのタイプは演出上の都合もあったと思いますが*1、そもそもタイプライターが現代のキーボードに比べて打鍵に力を要するもので、バタついてしまうこと自体は仕方ありません。そういう観点から見た際に、アニーの低空を這うようなタイプはかなりの練度を伺わせるに足ります。 タイプライターメーカーには専属トレーナーが付いていましたが、あのおばあちゃんトレーナーに相当厳しい訓練を課されていたのでしょう。アニーの次の職場での活躍を願ってやみません。

ピアノの特訓シーン

鬼コーチ役ルイが知り合いの女性に頼み込み、ローズにピアノを特訓してやって欲しいというシーンがありました。楽器と経験とタイピングの能力の関係については僕もしばしば書いてきましたが、映画の中でもそれが取り入れられていたということは、そういう認識については共通なんでしょうね。

ピアノを練習に取り入れたシーンも、実際にそうやって練習していると聞いたのを参考にしているんです。

監督インタビュー

ちなみに、個人的には短期間でのタイピング能力向上を目指すなら、ピアノのような(タイピング以外の要素も要求される)練習を取り入れるよりは、そのルールに特化したタイピングそのものの練習時間を増やしたほうが効果的だと思います。

サイン(?)シーン

ローズが全仏大会を優勝した後、サイン(?)会場で写真をタイプライターに挟んで、タイプして印字したものをファンに渡すシーン。あれすごくいいですね!誰がやっても同じブツになるけど、目の前で本人が打ってくれたものがもらえるのはかなり嬉しいかも。

それにしても、タイピングが速いことであれだけ女性の羨望の的になる時代があったというのは驚きですね。「あの時代に行ってみたいわー」と思ったタイパーは多いのでは?(そしてタイプライターが打ちづらすぎて愕然とするところまでは見えた)

世界大会の韓国人

アジア人も参加していたんだ!?という点とタイプライターって欧米だけじゃなかったんだ!?という2点に驚きました。確か映画の中でもちらっと韓国人選手のタイプライターのキーが写っていましたが、アルファベットではないハングルのような漢字のような何かだった気がします。ハングルのタイピングゲームは昔ちょこっと触ってみたことがありますが、字形を組み合わせて一つの文字にする、という意味ではドイツ語とかのウムラウトの入力に近いのかもしれません。もし日本人が参加できていたとしたら、一体どんなことになるのか……?

実用前提?な競技ルール

世界大会でもタイプライターが参加選手によって違ったのは全仏大会と同じですが、驚いたのは入力する文章が参加国ごとに違う(であろう)ことです。実況では「入力する文章の難易度が同じになるよう何ヶ月も書けて練り上げました。もちろんタイプ数は同じです」と言っていたことから、アメリカ人は英語、フランス人はフランス語、イタリア人はイタリア語の文章を使って戦っていたと思われます。

英語で競わせればいいのでは?とも思いましたが、おそらく2つの点で難しかったのではないかと思います。

  • 各国の意地の張り合い

国際タイプ協会(だっけ?)という名前からして、参加各国協力の下成り立っていると思われるので、特定の言語を使った大会というのは合意が得られなかったのでしょう。もし、一番大きな力を持っていたと思われるアメリカが「世界チャンピオンを擁していなかったとしたら」、英語による大会になっていても不思議ではないですけどね。

  • 秘書という職業を前提としたタイピスト

秘書の仕事といえば基本的にその国の言語で書かれた書類を作ることなのだから、例えばあの時代フランス人のローズが英語をタイプすることなどほとんどなかったはずです。そういう状況下で国際的なタイピング大会を開く際に英語を強制したら大会の実現自体が難しかったのでしょう。

逆に言えば、あの時代のタイピングは「完全なる競技」にまで昇華されていたわけではなく、あくまで秘書という実務の中の一技能として扱われていたということでしょう。競技であれば公正なルールのもと戦わなければいけませんが、職能の一つであれば別にそこまでこだわることもありません。タイピストという職業が廃れた現在でも、「競技」として扱われているのかというと微妙ですけどね。

タイピングを完全に実用から切り離して考えるのはいつの時代でも難しいようです。

アームが絡まった……だと!?

あ、このネタあるんだ(笑)と思いました。タイプライターといえばアームが絡まる、という話はよく聞くところです。実際にタイプライターを打ったことがない僕としては詳細なイメージはできないですが、「機械の構造がついていけないほどのタイプの速さ」という演出にはうってつけでしたね。そして、5分間の中の10秒ぐらいロスしてたのに世界記録更新して勝つってどんだけ!!

まとめ

タイプライター欲しいわー

冗談抜きでまずはこれですね。 キーボード配列QWERTYの謎 を読んだ時にも思いましたが、タイピングの原点はタイプライター。現代でもいろいろなキーボードについて、これは打ちやすい、頑丈だ、静かだ、とか様々な観点で盛り上がることがありますが、昔もきっと同じような話題が繰り広げられていたんだと思います(そこまで庶民的な話題ではなかったと思いますが)。タイパーとしてはやはりそういうのを少しでも肌で感じてみたいですね。

タイピストがヒロインの映画、という夢のような作品が登場したのもさることながら、そこにしっかり食い込んでいく全日本タイピスト連合やタイパーの面々は伊達じゃなかった。遊びでやってんじゃねーぞというその本気度合い、僕は敵いそうもありませんが、タイピングガチ勢の端くれとして、なんやかんやお手伝いしていけたら楽しそうです。

*1:タイプライターの向かいから撮影する場合、手元が映らないとスピード感とか必死になっている感じが出づらい